他人が「これは上がる」と言った銘柄を、つい買ってしまったことはないだろうか。

私はある。何度もある。SNSのタイムラインで盛り上がっている銘柄、テレビでアナリストが推した会社、知人が「絶対いい」と熱を込めて語った株。深く調べないまま、その熱量に押されて買ってしまう。そして決まって、買った直後から下がっていく。


ジム・ロジャーズの名言「安く買い高く売る」が難しい本当の理由——自分で調べた株を買え

他人の言葉で買った株は、なぜ下がると手放せないのか

含み損になったとき、いちばん困るのは「自分が何を持っているのか分かっていない」状態だ。

買った理由が「みんなが買っていたから」「あの人が薦めていたから」だと、株価が下がった瞬間に支えになるものが何もない。事業内容も、なぜ割安だと思ったのかも、自分の言葉で説明できない。だから不安になり、ちょっとした下落でうろたえる。

(白状すると、若い頃の私の含み損銘柄は、ほとんどがこのパターンだった)

逆に、自分でじっくり調べて納得して買った株は、下がっても妙に落ち着いていられる。「この会社はこういう理由で持っているんだ」という根拠が、自分の中にあるからだ。

この違いを、ある冒険投資家は実にあっさりと言い切っている。

「自分で調べた会社の株を買え。さもなければ家で映画を見ていろ」

ジム・ロジャーズの言葉とされる、有名な一言がある。

「自分で調べた会社の株を買え。さもなければ、家で映画でも見ていたほうがいい」

突き放したような言い方だが、要するに「下調べをしないなら、市場に出てくるな」ということだ。彼自身、別の場面でこうも語っている。

“You will never get anywhere if you do not do your homework.”

「下調べをしないのなら、あなたは決してどこにもたどり着けない」

ホームワーク、つまり宿題。投資を「宿題のある仕事」だと捉えているのが、いかにもロジャーズらしい。誰かに答えを教わるのではなく、自分で手を動かして調べる。その地味な作業こそが、相場で生き残る土台になる——彼はそう繰り返してきた。

ソロスの相棒、そしてバイクで世界を回った男

ジム・ロジャーズという人物について、少し触れておきたい。名言の重みは、語り手がどう生きてきたかと切り離せないからだ。

ロジャーズは1970年代に、あのジョージ・ソロスとともに「クォンタム・ファンド」を共同で立ち上げた人物として知られている。このファンドは10年ほどで桁外れのリターンを叩き出し、二人を伝説に押し上げた。ソロスが大胆に張る人だとすれば、ロジャーズは徹底的に調べ尽くす人——そんな役割分担だったとよく語られる。

そして30代後半でいったん現役を退いたあと、彼はバイクやメルセデス・ベンツで世界中を走り回った。六大陸を横断し、100か国を超える国々を自分の目で見て回ったことで知られている。なぜそんなことをしたのか。本人いわく、現地に足を運ばなければ、その国の経済が本当はどうなっているのか分からないからだ。

机上のデータではなく、自分の足と目で確かめる。「自分で調べろ」という言葉が口先だけでないことを、彼は人生そのもので示してきた投資家だと言っていい。

「安く買い高く売る」——簡単そうで、誰もできない理由

ロジャーズのもう一つの代表的な言葉が、これだ。

“Buy low and sell high. It’s pretty simple. The problem is knowing what’s low and what’s high.”

「安く買い、高く売る。簡単だろう? 問題は、何が安くて何が高いかを知ることだ」

一見すると当たり前すぎる。投資の入門書の一行目に書いてありそうな話だ。だが、ロジャーズはここに鋭い棘を仕込んでいる。「何が安くて何が高いか」——それを知ることこそが、投資のすべてだと言っているのだ。

考えてみてほしい。株価が下がっている銘柄を見て、それが「安い」のか「これからもっと下がる危険なもの」なのか、どうやって見分けるのか。チャートの形だけでは分からない。SNSの盛り上がりでも分からない。その会社が何で稼いでいて、なぜ今この値段なのか、自分で調べて初めて「これは安い」と判断できる。

たとえば、ある会社の株が決算を機に2割下げたとする。表面だけ見れば「割安になった」と飛びつきたくなる。だが中身を調べると、主力事業が構造的に縮小に向かっていた——そんなことはざらにある。逆に、下げの理由が一時的な為替や仕入れコストで、本業は揺らいでいないなら、その下落はチャンスかもしれない。

この見極めは、他人の「安いですよ」という言葉では絶対に手に入らない。だからロジャーズは「自分で調べろ」と「安く買え」を、ひとつながりの教えとして語っているのだと私は理解している。

そういえば、相場で本当に戦うべき相手についてはリバモアが鋭いことを言っている。リバモアの名言「勝つべき相手は自分自身だ」も、調べる前に感情で動いてしまう自分への戒めとして併せて読みたい。

新NISA世代の「情報の取り方」に、この言葉をどう当てはめるか

いまは情報があふれている。スマホを開けば、誰かのおすすめ銘柄がいくらでも流れてくる。新NISAが始まって投資を始めた人なら、なおさら「何を買えばいいのか」を外に求めたくなるだろう。気持ちはよく分かる。

だが、その情報の波こそ、ロジャーズが警戒したものそのものだ。

誤解しないでほしいのだが、情報を集めること自体は悪くない。問題は、集めた情報を「自分のフィルターに通したか」だ。誰かの結論をそのまま借りるのか、それともその結論にたどり着いた理由まで自分で確かめるのか。ここに天と地ほどの差がある。

新NISA世代にとって現実的なのは、いきなり一社一社を分厚く分析することではないかもしれない。それでもいい。まずは「自分が買おうとしているものが何なのか」を一言で説明できるかどうか。インデックス投信なら「世界全体の成長に賭けている」、個別株なら「この会社はこのサービスで稼いでいる」。その一言が自分の中にあるかどうかで、暴落が来たときの踏ん張りがまるで変わってくる。

…いや、踏ん張りどころか、そもそも狼狽売りをするかどうかが変わる、と言ったほうが正確だ。

是川銀蔵のように、独自に徹底して調べ抜いた投資家もいる。是川銀蔵の名言「投資五カ条」には、自分の足で情報を取りに行く姿勢が色濃くにじんでいて、ロジャーズと重なる部分が多い。

よくある誤解——「自分で調べろ」は「全部わかれ」ではない

この名言を真に受けすぎて、逆に動けなくなる人がいる。

「プロみたいに財務分析できないと買ってはいけないのか」「世界を回らないと投資する資格がないのか」——そう構えてしまうのだ。これは誤解だと思う。

ロジャーズが言っているのは「完璧に理解しろ」ではない。「他人任せにするな」だ。この二つはまったく違う。

調べると言っても、最初は事業内容をざっと把握する程度でいい。その会社が何で儲けているか、競合は誰か、なぜ自分はこれを持ちたいのか。それを自分の言葉で説明できれば、入り口としては十分だ。完璧主義で固まってしまうより、不完全でも自分の頭で考えたほうが、よほどロジャーズの教えに近い。

もう一つ。「コモディティで有名な人だから、自分もコモディティを」と短絡するのも誤解だ。彼がコモディティを語ったのは、自分が深く理解している分野で勝負する姿勢の表れにすぎない。真似るべきは商品そのものではなく、「自分の土俵で戦う」という考え方のほうだ。

今日からできる1つのこと

手帳でもスマホのメモでもいい。次に何かを買おうと思ったとき、こう自問してほしい。

「この会社(この商品)は、何で稼いでいるのか。自分の言葉で一行書けるか?」

書ければ、あなたはもう「自分で調べた株」を買おうとしている。書けなければ、それは買い時ではなく、調べ時だ。家で映画を見ながら、もう少し下調べをすればいい。

たったこれだけのことで、他人の熱量に流される買い物が、自分の納得に変わる。ロジャーズが世界中を走り回って確かめたのと、本質は同じことを、私たちは机の上で一行のメモから始められる。

なお、名言を投資の判断軸として束ねたいなら、投資の名言・格言ガイドに主要な投資家の言葉をまとめてある。ロジャーズの「自分で調べろ」を、ほかの名言と並べて眺めてみると、共通する核がよく見えてくるはずだ。

FAQ——ジム・ロジャーズの名言についてよくある疑問

Q1. ジム・ロジャーズの「安く買い高く売る」は結局なにが言いたいのですか? 言葉どおりの売買テクニックの話ではありません。「何が安くて何が高いか」を自分で判断できる目を持て、という戒めです。その目は他人の推奨では手に入らず、自分で調べることでしか養えない、というのがロジャーズの真意だと私は受け取っています。

Q2. 「自分で調べた会社の株を買え」と言われても、何を調べればいいか分かりません。 最初は完璧でなくて構いません。その会社が何で稼いでいるか、自分の言葉で一言説明できるか。これだけでも十分なスタートです。事業内容を説明できない銘柄は、その時点で「調べ足りない」というサインだと考えてください。

Q3. ロジャーズはコモディティ投資で有名ですが、個人がコモディティをやるべきですか? 必ずしもおすすめしません。ロジャーズがコモディティを語ったのは「自分が深く理解している分野で勝負する」という姿勢の表れです。大切なのは商品そのものより、自分の土俵で戦うという考え方を真似ることだと思います。

Q4. SNSで話題の銘柄を買うのは、なぜ危ういのですか? 他人の判断を借りているため、株価が下がったときに自分で持ち続ける根拠を持てないからです。買った理由が「みんなが買っていたから」だと、下落局面で何の支えにもなりません。売る判断も他人任せになり、底値で投げてしまいがちです。

Q5. 新NISAのインデックス積立にも、この名言は関係ありますか? 関係します。インデックス投資は個別の調査を省ける優れた仕組みですが、「なぜ自分はこの指数を長期で持つのか」という根拠だけは自分で持つ必要があります。その納得があるからこそ、暴落時にも積立を止めずに済むのです。