新NISAの口座を開いた。つみたての設定もした。最初の数か月は順調だった——はずなのに、最近、入金が続かない。
「今月はちょっと厳しいから、つみたて額を下げようかな」「ボーナスが入ったら、まとめて入れればいいや」。そう思っているうちに、口座の残高はなかなか増えていかない。気づけば、財布に残ったお金で投資しようとして、結局ほとんど残っていない。そんな経験はないだろうか。
入金力が続かないのは、あなたの意志が弱いからではない。順番が逆なのだ。そして、その順番を百年前にすでに見抜いていた日本人がいる。
本多静六が遺した「四分の一天引き貯金」とは
まず、この言葉を読んでみてほしい。本多静六(ほんだ せいろく)が著書『私の財産告白』で記した、彼の蓄財の出発点である。
通常収入の四分の一、臨時収入の全部を、天引きにして貯金する。
たったこれだけ。難しい理論も、特別な才能も出てこない。給料が入ったら、まず四分の一を貯蓄に「天引き」してしまう。残ったお金で暮らす。ボーナスなどの臨時収入は、まるごと貯蓄に回す——それだけのルールである。
ここで大事なのは「天引き」という言葉だ。使った残りを貯めるのではない。先に貯める分を取り分けてしまい、残りで生活する。順番が、私たちの感覚とまるで逆なのである。
あなたの家計を思い出してみてほしい。生活費を払い、なんとなくお金を使い、月末に残った分を「投資に回そう」としていないだろうか。本多に言わせれば、それでは永遠に貯まらない。残り物には、たいてい何も残っていないからだ。
「公園の父」が、なぜ投資の達人だったのか
本多静六と聞いても、ぴんとこない人は多いかもしれない。それも無理はない。彼の本職は、お金の専門家ではなかったからだ。
本多は明治から昭和にかけて活躍した林学者で、東京帝国大学(現在の東京大学)の教授を務めた人物である。日比谷公園や明治神宮の森など、日本各地の公園や森の設計を手がけたことから「公園の父」とも呼ばれている。
その大学教授が、なぜ投資の話で語り継がれるのか。彼は本業のかたわら、四分の一天引きで貯めたお金をコツコツと投資に回し続け、長い年月をかけて巨額の財産を築いたからである。
その規模は、現在の価値に換算して数十億〜百億円規模だったとされる。ただし、この金額はあくまで現代の物価に直した概算であり、断定はできない。重要なのは、桁の大きさそのものより、彼がその財産のほとんどを社会に寄付してしまったという事実のほうだろう。富を増やすことを目的にせず、増やした富を手放した人だった。
ここに、彼の言葉が今も色あせない理由がある気がする。本多が語っているのは「いかに儲けるか」ではなく「いかに淡々と続けるか」なのだ。だからこそ、投資のプロでない私たちにも、すっと届く。
「二割利食い」に見る、決めたルールを守る力
本多のもう一つの教えが、株式の売却ルールである。「二割利食い、十割益半分手放し」と伝えられるこの考え方を見てみたい。
伝えられるところによれば、本多は買った株が2割値上がりしたら利益を確定させた。そして2倍(十割益)にまで増えたら、半分を売って元手をすっかり回収し、残りはさらなる値上がりを取りに行かせた——という具合である。こうすれば、元手はすでに手元に戻っているので、残った株がどう動いても大きく損をすることはない。
この売却ルールが面白いのは、「いくらまで上がるか」を予想していない点だ。
私たちは投資をしていると、つい「もっと上がるはず」「いや、そろそろ天井かも」と未来を当てにいきたくなる。だが本多は、未来を当てにいかなかった。あらかじめ「2割で利食う」「2倍で半分手放す」とルールを決め、あとはそれを機械のように守っただけなのだ。
感情で売り買いするのではなく、決めたルールに従う。これは入金においても、まったく同じ姿勢だと気づくだろうか。四分の一を天引きするのも、二割で利食うのも、根っこにあるのは「気分ではなく、仕組みで動く」という一本の哲学なのである。
四分の一天引きを、新NISAのつみたて設定に置き換える
さて、ここからが本題だ。本多の知恵は、百年後の新NISAを生きるあなたに、そのまま使える。
新NISAの「つみたて投資」には、毎月決まった日に決まった額を自動で買い付ける設定がある。給料日の翌日にでも引き落とし日を設定すれば、どうなるか。
お金が手元に届く前に、投資へと天引きされていく。
これこそ、現代版の四分の一天引き貯金にほかならない。本多が一円ずつ手作業でやっていたことを、私たちは証券口座の設定一つで自動化できる時代に生きているのだ。これを使わない手はない。
もちろん、いきなり収入の25%は多いかもしれない。新NISAのつみたて投資枠は年間120万円、月にすると最大10万円まで使えるが、満額を目指して家計が苦しくなっては本末転倒だ。
例えば毎月3万円を新NISAでつみたてる。これだけでも、年間36万円が「使う前に」投資へ回っていく。仕組みさえ作れば、あなたの意志の力はもう必要ない。毎月「今月は投資できるかな」と悩むあの時間から、解放されるのである。
入金力とは、根性のことではない。順番を変える、ただそれだけの設計なのだ。
つい陥りがちな、二つの誤解
ここで、本多の教えをめぐってありがちな勘違いを、二つほどほどいておきたい。
一つめは「四分の一も貯められないなら、自分には無理だ」という思い込みである。これは誤解だ。本多が伝えたかったのは25%という割合の大きさではなく、「先取りで自動化する」という仕組みのほうにある。だから、まずは収入の5%でも、月1万円でもいい。本多自身、若い頃は生活が相当に苦しかったと記している。続けられる金額から始めることのほうが、何倍も大切なのだ。
二つめは「本多みたいに大儲けしないと意味がない」という勘違いである。彼が築いた財の大きさに目を奪われると、つい忘れてしまう。本多が一貫して説いたのは、儲けの技術ではなく「淡々と続ける」という態度だった。投資の名言に共通する核心でもある(投資の名言をまとめて読みたい方は投資の名言ガイドもどうぞ)。あなたが目指すべきは、彼のような巨額の資産ではなく、彼のような静かな継続なのである。
今日からできる、たった一つのこと
最後に、今日できることを一つだけ。
証券口座を開いて、つみたて設定の「引き落とし日」を、あなたの給料日の直後に設定し直してみてほしい。それだけでいい。金額を増やす必要はない。今のつみたて額のまま、ただタイミングを「お金が手元に残る前」にずらすだけだ。
これが、百年前の本多静六が手作業でやっていた「天引き」を、あなたの暮らしに招き入れる第一歩になる。残ったお金で投資するのではなく、投資した残りで暮らす。順番が変わったとき、あなたの入金力は、もう意志に頼らなくてよくなる。
同じく「決めたことを守る」という規律については、最後の相場師・是川銀蔵の投資五カ条も響くものがあるはずだ。また、銘柄選びに疲れてしまった人には、ジョン・ボーグルの「干し草の山を買え」という名言が、肩の力を抜くヒントをくれるだろう。
焦らなくていい。あなたのペースで、まず順番を一つ変えるところから始めてみよう。
よくある質問(FAQ)
Q1: 四分の一天引き貯金法とは何ですか?
本多静六が実践した、給料が入ったらまず四分の一(25%)を先に貯蓄に回す方法です。ボーナスなどの臨時収入は全額を貯蓄に回しました。残りで生活をやりくりするため「使う前に貯める」が自然と習慣になります。現代の新NISAのつみたて設定と発想がよく似ています。
Q2: 本多静六とはどんな人物ですか?
明治から昭和にかけて活躍した林学者で、東京帝国大学の教授を務めた人物です。日比谷公園や明治神宮の森などの設計を手がけ「公園の父」とも呼ばれました。一方で投資家としても成功し、現在の価値で数十億〜百億円規模とされる財を築いたうえで、その大半を社会に寄付したことで知られます。
Q3: 「二割利食い、十割益半分手放し」とはどういう意味ですか?
本多が用いたとされる売却ルールです。株が2割値上がりしたら利益を確定し、2倍(十割益)に増えたら半分を売って元手を回収した、と伝えられています。残りは値上がりを取りに行きつつ、損のリスクは抑える——あらかじめ決めたルールを淡々と守る姿勢が特徴です。
Q4: 四分の一は今の家計には多すぎませんか?
無理に25%から始める必要はありません。大切なのは割合の大きさより「先取りで自動化する」という仕組みのほうです。まずは収入の5%や1万円からでも構いません。本多自身も最初は生活が苦しかったと記しており、続けられる金額から始めることが何より重要です。
Q5: 本多静六の考え方は新NISA世代にも役立ちますか?
役立ちます。「使う前に天引きで投資へ回す」という発想は、新NISAのつみたて設定そのものです。給料日に自動でつみたてられる仕組みを作れば、意志の力に頼らず、本多が一世紀前に実践した先取りの知恵を、あなたも現代の形で再現できます。
