この言葉に出会ったとき
「株式市場は、せっかちな人から忍耐強い人にお金を移す装置である」 ── ウォーレン・バフェット
初めてこの言葉を目にしたとき、正直なところ「きれいごとだな」と思いました。忍耐が大事なことくらい誰でも知っている。問題は、それを実行できるかどうかだろう、と。
でも、投資を続けるうちに、この言葉の重みが少しずつ変わってきた。
バフェットが言う「忍耐」は、ただじっと待つことではない。もっと能動的で、もっと厳しいもの。(これが一番大事かもしれません)
このテーマの全体像をつかみたい方は、まずこちらをご覧ください。 投資名言から学ぶ心理戦略|世界の賢人に学ぶ投資の知恵
バフェットの「忍耐」は何が違うのか?
多くの人が考える投資の忍耐とは、「買った株が上がるまで我慢して持ち続ける」ことでしょう。間違いではありません。でも、バフェットの忍耐はもう一段階深い。
バフェットは「打つべき球が来るまでバットを振らない」タイプの投資家です。
彼がよく引用する野球の例え話があります。伝説のバッター、テッド・ウィリアムズはストライクゾーンを77のマスに区切り、自分が最も得意なマスに来たボールだけを打った。打率4割超え。つまり、「振らない」判断こそが結果を生んだということ。
バフェットの忍耐には2つの側面がある。ひとつは買うまでの忍耐──最高の投資機会が来るまで何もしない勇気。もうひとつは買った後の忍耐──市場が暴落しても、周りがパニックになっても、自分の分析を信じて保有し続ける胆力です。
日本の個人投資家にとって、特に難しいのは前者かもしれません。証券口座に入金したお金が眠っていると、なんだかソワソワしませんか? 「せっかく投資するために用意したのに、何もしないのはもったいない」──この焦りこそが、バフェットの言う「せっかちさ」の正体です。
関連して、こちらの記事も参考になります。 チャーリー・マンガーの名言「大きなお金は待つことにある」が教える投資の真実
なぜ私たちはせっかちになってしまうのか?
人間の脳は、行動することに報酬を感じるようにできています。
何かをした、という事実そのものがドーパミンを分泌させる。じっとしているよりも売買しているほうが「投資している実感」を得られる。証券口座を開いて何もせずに閉じる──これが意外なほど難しいのは、脳が「行動してこそ報酬がある」と信じているからです。
…いや、脳だけのせいにするのは少しずるいかもしれません。
現代は、情報のスピードが忍耐力をジワジワと蝕んでいます。スマートフォンの通知、リアルタイムの株価表示、SNSの速報──「今すぐ行動しなければ」というプレッシャーが四六時中かかっている状態。バフェットの時代とは環境が違う。
でも、だからこそ。バフェットがバークシャー・ハサウェイを率いて60年以上、その間の主要な投資判断は実はそれほど多くありません。数十の重大な判断が、数兆ドルの富を生み出した。裏を返せば、判断しない日のほうが圧倒的に多いのです。
投資名言から得られる心理的な気づきについては、投資名言から学ぶ心理戦略ガイドでも体系的にまとめています。他の名言も気になる方はぜひ。
歴史が証明する「忍耐の配当」
日本市場でも、忍耐が報われた例は枚挙にいとまがありません。
2008年のリーマンショック。日経平均はピークの18,000円台から一時7,000円を割り込みました。朝のニュースで「日経平均-1000円」の文字を見て、コーヒーカップを持つ手が震えた人も少なくなかったはず。恐怖に負けて売った投資家は、その後の回復を享受できなかった。一方、歯を食いしばって保有を続けた投資家──あるいは勇気を持って買い向かった投資家は、その後の10年で資産を大きく増やしています。
もっと身近な例もある。
2020年3月のコロナショック。日経平均は16,000円台まで急落し、SNSには「世界恐慌の再来だ」「株はもう終わりだ」という悲観論が溢れました。あのとき一番大切だったのは何でしょう? 相場を読む力? 銘柄を選ぶ力?
パニックに流されない忍耐力。ただそれだけでした。
「何もしない」ことの難しさ
投資における忍耐の最大の敵は、退屈です。
相場が動いているのを眺めながら何もしない。含み損がジワジワ膨らんでいくのを見ながら何もしない。周りが利益を出しているのを聞きながら何もしない。
「何もしない」は、受動的に見えて実は能動的な意思決定の連続。
本当にそうだろうか? と思うかもしれません。でも考えてみてください。証券アプリを開いて、含み損の赤い数字を見て、それでも「今日は動かない」と決断する。これは立派な意思決定です。しかも、感情に逆らう分だけエネルギーを消耗する。
日本の個人投資家のデータを見ると、売買頻度が高い投資家ほどリターンが低い傾向があります。手数料の問題だけではない。頻繁な売買は感情的な判断を増やし、結果としてパフォーマンスを悪化させるのです。(これは、かなり残酷なデータです)
忍耐を「スキル」として鍛える方法
忍耐は性格ではなく、スキル。練習すれば上達します。
投資日記をつける
売買したくなったとき、まずノートに「なぜ今売りたいのか(買いたいのか)」を書き出してみてください。
書くという行為が、衝動と行動の間にワンクッションを置いてくれます。3日後にその日記を読み返して、まだ同じ判断をしたいと思えるなら、行動に移せばいい。驚くほど多くの場合、3日後には衝動が消えているものです。
「何もしなかった日」を記録する
人は行動したことは記録するけれど、行動しなかったことは記録しない。
でも投資においては──「売りたかったけど我慢した日」「買いたかったけど見送った日」こそ、振り返る価値がある。後から見返すと、何もしなかった判断が最善だったケースの多さに驚くはずです。
自動化で感情を排除する
つみたてNISAや定期積立は、忍耐のスキルが未熟なうちから「忍耐の成果」を享受できる仕組み。
毎月決まった額を自動で投資する。相場がどうであれ、コツコツと淡々と続ける。この仕組み化が、感情に左右されない投資の土台をつくります。…と言いつつ、暴落が来ると積立を止めたくなるのもまた人間なのですが。
バフェットの言葉を自分の投資に落とし込む
バフェットほどの資金力や情報力はなくても、忍耐だけは誰にでも実践できます。
特別な才能も、高度な分析力も必要ない。ただ、自分の感情に気づき、衝動に一拍置く。それだけ。
市場は明日も明後日も開いています。チャンスは一度きりではありません。
「今日動かなくても、明日がある」──そう思える心の余裕こそが、長期投資の最強の武器なのかもしれません。
関連記事
- バフェットの忍耐力を支えた思考法を本から学ぶなら、『バフェットの法則』書評がおすすめです。
- 長期投資のマインドセットを実践的に育てたい方は、長期投資マインドの育て方もご覧ください。
